エリク・H・エリクソン(1902年生)は、発達心理学者や精神分析家として研究を行ってきた方です。中でも、「ライフサイクル・モデル」という人間が生まれた直後から死ぬ直前まで、健康に幸福に生きていくことを一つのモデルとして示した研究者として世界中で著名な人です。
エリクソンが示したライフサイクル・モデルにて人間には以下の8つの時期に合わせて課題が存在すると説きました。
【乳児期】0歳~2歳「基本的信頼」 ←今回はここについて書きます。
【幼児期】2歳~4歳「自律性」
【児童期】4歳~7歳「自主性」
【学童期】7歳~12歳「勤勉性」
【思春期・青年期】13歳~22歳「アイデンティティの形成」
【成人期】23歳~35歳「親密性」
【壮年期】36歳~55歳「世代性」
【老年期】56歳~「人生の統合」
エリクソンの「ライフサイクル・モデル」は大変子育ての参考になることばかりです。
要点をまとめながら、私自身の解釈も含め、書いてみたいと思います。
【乳児期】について…
エリクソンが言う「乳児期」は0歳児ということではなく、0歳~2歳くらいを指します。
年齢はあくまで目安ということが書かれています。
それぞれの発達時期の課題のことをエリクソンは「危機的な主題」としました。
必ず乗り越えなければいけない課題。とも言い換えれるかもしれません。
乳児期の危機的な主題は「基本的信頼」。
人を信じることができる力、安心感、愛着などでしょう。
エリクソンは、相手を信じることと、自分を信じることは表裏一体と説きました。
人を信じることができる心を持つことができれば、ビクビクして生きる必要がなくなり、結果的に自信を持つ人になることができるということでしょう。
心の奥底で生きる上での「安心感」「信頼感」があれば、人は強く生きることができます。
心理学者アブラハム・マズローの「マズローの欲求5段階説」でも、生きていくために必要な、基本的・本能的な欲求が最初のベースとなっています。「安心して生きることができる」という心の基盤をつくってあげることが乳児期はとても必要なことです。
では、どのようにしてそのような基盤をつくることができるのでしょうか。
エリクソンは、基本的な信頼が形成されることにおいて、必要不可欠な存在を「母親」としています。母親は、必ずしも血がつながっていなかったとしても「母親に成り代わる存在」です。エリクソンは、お母さんのことをどれくらい信じることができるかが、その後、自分をどのくらい信じることができるか、につながっていくと言っています。
「父親」がダメか、というとそうではありませんが、やはり誰しも「母親」のお腹で育っていたからでしょうか、子どもは無意識に「母親」「母性」を求めます。本能的に備わっている感覚なのでしょう。
子どもが信頼感を持つにはどのようなアプローチが必要でしょうか。
エリクソンは「母親が望みをかなえてあげること」と言っています。
子どもの欲求を満たしてあげること、満足させること、笑いかけること、喜ばせることなどによって、安心感を持つようになります。「あなたが何をするから、こんな行動をするから愛します」という条件付きの愛情ではなく、言葉だけではない「どんなことをしてもあなたを愛します」という姿勢が必要です。
子どもは、母親に依存しながら、生きる上での安心を得て、始めて母親から分離し、独立し始めます。基本的信頼の不足があれば、小学生、中学生、大学生、大人になっても、心の不安をどこかで補おうとするように行動してしまうことがあるようです。
家族との信頼関係がある人は強い。家族や両親との関係が良い人は、なんとなく自信を持っています。失敗しても、何か難しいことが起きても、戻れる場所、信じてもらえている場所があると意識せずとも、心が知っているのでしょう。
児童精神科医の佐々木正美先生もエリクソンからたくさんの影響を受けたお一人です。佐々木先生は、「基本的信頼は、絶対音感と同じで、後から身につけることはとても難しいこと」と表現されています。ライフサイクル・モデルにおいて、課題を飛び越えることはないとされているため、後から取り戻そうとしてもとても難しいと言われています。それだけ、この時期は後戻りできないとても大切な時間ですね。
園でも家庭と同じように、心を込めて、たくさんの愛情を伝え、この時期にしか身につかない基本的信頼を育んでいきたいと思います。